買うならなるべく文庫版。語呂がいい標語である。異常に語呂がいい。
何度でも何度でも声に出したくなる。買うならなるべく文庫版。買うならなるべく文庫版。買うならなるべく文庫版……。
清話休題。
同じ書籍でも文庫版と単行本版、2つのヴァージョンで出版されているときがある。
2つどころか新書版、さらには愛蔵版、あるいは出版社違いでも文庫版が発売されている場合がある。
さらに厄介なことに、近年では電子書籍というのもある。
本が好きな人に「ひとつしか所有できない場合、どれを選びますか?」と問えば「単行本」あるいは「愛蔵版」と答えが返ってくるような風潮があるように私は思う。主にTwitterを観察した結果である。
それはともかく、実用性の面でいうと、文庫本に勝るものはない。ダントツである。かろうじて新書版がいい勝負をするかもしれないけれども、最後の直線で5馬身差がつくくらい、私の中では断然ぶっちぎりのトップである。
文庫版のいいところは何といってもズボンの尻ポケットに入るサイズであることである。
単行本はズボンのポケットどころかカバンが小さければそれに入るのかもあやしい。完全に持ち運ばれることを拒絶している。
単行本を読むとしたら自宅あるいはベッドの上など。かなり場所を選ぶ書籍形態である。わがまま娘だ。嫌いじゃないけど。
文庫版は何より軽い。単行本はハードカバーと表現されるだけあって背表紙が硬く丈夫なマテリアルでできている。長く保存するというかそれこそバードに愛するにはそれがいいのかもしれないけれども、読むという行為だけでいうと、文庫にとうてい及ばない。
私はパソコンなどの日用製品においても、選定基準として「軽さ」すなわち「重くないこと」が挙げられるというか、それが第一というか、それしかほとんど見ていないと言っても過言ではない。
そんなわけで、パソコンはMacを使っているんですけれども、それは私の知っている限りいちばん薄くて軽いからである。
重量はアクションのおこしやすさと反比例する。
ハードカバーは、それがよほど自分が待ち望んでいた小説でない限り、開くのに相当の気力・努力・体力・理力を要する。
その点文庫版は気楽である。さっと取り出してペロっと開いてちらっと読めばいいから。
単行本の良いところは書き込む場合にいっぱい文章を残しておけるという点である。アウトプットメモのための領域が多く確保されている。ただ単純に面積が広いと言うことだけであるけれども。
以前単行本しか出ていない本でめちゃくちゃ書き込んだものがあって、大きいから・場所をとるからといって捨てるに捨てられなかったのだが(人はなかなか過去の努力を捨てられないものだ)、いつのまにやら文庫版が出ていることを中古ショップで発見して、すぐさま文庫版を購入そして単行本の書き込みを取捨選択しながら文庫に書き込んだ……と言う経験がある。
私は単行本に本当に思い入れがないのだと思う。
買うならなるべく文庫版。
ものすごく読みたい本が単行本でしか出ていないときは「蛙の行列」のことわざを思い出して我慢することにしている。
「待て」は他の動物でもできますけど、「我慢」は人間しかできないから。